【目次】
・生成AIを巡る格差を乗り越える:課題と燃え尽き症候群
・AIへの期待と社員の懸念のギャップを埋める
・チェンジマネジメント
・トレーニング
・AI活用のガイドライン
・リーダーシップ
・AIの統合と職場の結束を連携させる
Key Takeaways
- 生成AIは、経営陣の期待の高さと社員の実際のスキルとの間に広がる溝を生み出しています。生産性の向上にはこのギャップを埋める必要があることは明らかです。
- 効果的にAIを導入するためには、全社員に包括的なトレーニングを実施し、AIファーストの環境に適応して成果を上げる能力を身につけてもらう必要があります。
- AIの導入を成功させるためには、明確なリーダーシップ、戦略的なチェンジマネジメント、そして経営陣が研修や透明性のあるコミュニケーションを通じて社員をサポートすることが必要です。
- 社員にAIが対応できる領域と限界を理解してもらい、責任ある、効果的な活用を推進するためには、明確なAI利用ガイドラインを策定することが不可欠です。
ChatGPTのリリースから2年足らずで、OpenAIは生成AIをより幅広い層に普及させました。この技術はテクノロジー、教育、ヘルスケア、リテールなどさまざまな分野の業務と文化を変革する可能性を秘めた強大な力を解き放ったのです。
収益の増加、顧客サービスの向上、コスト削減にこだわるビジネスリーダーは、生成AIを優先事項のトップに掲げています。マッキンゼー・アンド・カンパニーによると、AIが導入されてから6年間は約50%だった導入率が、生成AIブームに沸いた2023年には55%に上昇し、今年はさらに 72%まで跳ね上がりました。
アップワーク・リサーチ・インスティテュートによると、ビジネスリーダーの約85%は社員にAIの使用を求めたり、導入促進を行なっており、経営幹部の96%は生成AIツールが組織全体の生産性を向上させると考えています。成果を上げ、スキルセットを拡大し、より大きな責任を担ってもらえるよう、社員に期待しているのです。
生成AIを巡る格差を乗り越える:課題と燃え尽き症候群
生成AI導入に意欲的な経営者は多いようですが、彼らとその期待に応えることを求められる社員との間には隔たりがあります。アップワーク・リサーチ・インスティテュートの調査では、企業の要求に応えるため仕事量が増大しているにもかかわらず、AIを生産性向上に活用するためのツールやトレーニングが不足していることにストレスを感じている社員の現状が浮き彫りになっています。
「バーンアウト(燃え尽き症候群)」という言葉は報告書の中で何度も使われており、とりわけ若い社員に多く見られるようです。特にZ世代の83%が行き詰まりを感じていると回答しています。女性は男性よりもバーンアウトを感じる割合がやや高く、調査に回答した社員の3人に1人が過労で6カ月以内に仕事を辞める可能性があると報告されています。
AIを使用する社員のほぼ半数が、雇用者の生産性レベルに達する方法を見いだせず、4分の3がAIツール活用のためにワークロードが増えて実際には生産性を低下させていると感じています。AIツールの使い方を学んだり、AIシステムのアウトプットを評価・調整したりすることにより多くの時間を費やすだけでなく、さらに多くの業務をこなすことが求められています。その結果、多くの人がAIを使わなければならないことに圧倒されています。
企業の期待がどれほど現実的であるか、経営幹部がどれほど社員のウェルビーイングを重視しているか、社員が仕事でAIを活用する準備がどれほどできているかなど、あらゆる面で経営幹部と社員との間には大きな隔たりがあります。調査に参加した経営幹部の中で社員向けの研修プログラムを実施していたのは4分の1程度で、適切にAI戦略を実施していた経営幹部はほとんどいませんでした。
AIへの期待と社員の懸念のギャップを埋める
組織は、経営陣のAIへの熱意と社員の持つ懸念との間にあるギャップを埋める方法が必要です。ガートナー社は、AIは企業にビジネス価値をもたらす可能性を秘めているが、テクノロジーに対する社員の不信感(AIが生み出す偏見や、自分たちの代わりに働くデジタル代替物を訓練しているのではないかという不安)がその妨げになっていると論じています。
企業が求める生産性、効率性、財務的な利益を達成しつつ、社員が経営陣からの期待の下で萎縮せずにAIを受け入れられるようにするためには、どうしたらよいでしょうか。
いくつかのステップをご紹介します。
チェンジマネジメント
AIをビジネスプロセスと企業文化に統合するには、経営陣が新しいテクノロジーを採用することで何を期待するかを定義することから、実装プロセスの計画まで、戦略的なロードマップが必要です。組織のインフラは生成AIのワークロードに対応できるでしょうか?データ品質は担保されているでしょうか?セキュリティは十分に強固でしょうか?一方で、社員には行動、期待、スキルの面で変化が訪れます。社員がこうした変化を乗り越えるためには、会社のサポートが必要です。リーダーは、AIが社員の仕事に組み込まれるのに伴い彼らが何を必要としているかを理解し、それに準じて統合計画を調整する必要があります。
トレーニング
社員が仕事にAIを導入するのであれば、継続的なトレーニングが必要です。社員もその必要性を理解しています。10人中6人がAIが職場環境に定着するにつれ新しいスキルを学ぶ必要があると回答していますが、88%は技術を理解するためのサポートを雇用者が提供してくれるとは思っていません。問題の一つとして、多くのトレーニングが学士号以上の学歴を持つ社員を対象としている点が挙げられます。実際には大多数の社員がそうした学歴を持っていません。組織がAIの恩恵を十分に享受し、競争力を高めるためには、全社員を対象とするトレーニングを行う必要があり、それは今すぐ始める必要があるのです。
AI活用のガイドライン
新しい技術をビジネスに導入する際にポリシーやガイドラインが重要な要素となりますが、AIも同様です。生成AIを仕事で使用する社員は、上司が何を許可し、何を許可しないのかを理解する必要があります。これには、誰が業務にAIを使用でき、誰ができないのか、事前承認が必要かどうか、AIを使用できる業務の範囲、質問したい場合は社内の誰にすればよいかを明確にし、結果に対する責任は未だ人間にあるということが含まれます。
リーダーシップ
社員は、雇用者がこの新しいAIファーストの世界への移行をサポートしてくれることを期待しています。経営陣は、AIスキルを育成するための幅広い学習プログラムと、有能な社員を活気づけ、定着率を上げるためのキャリア開発の両方を実施する必要があります。 LinkedIn のレポートによると、5人中4人の社員が仕事へのAI活用を学びたいと考えており、経営陣もこれを理解し始めています。世界の経営幹部の10人中9人は、アップスキリングやリスキリングを含む学習と能力開発への投資を維持または増やす計画を持っていますが、大規模なプログラムへのさらなる投資が必要です。KPMGによると、CEOの半数は社員トレーニングよりも新技術への投資を優先しています。また、4分の3のCEOが協調的なリーダーシップモデルを信奉しており、目標や進捗状況をオープンにし、社員からのフィードバックを取り入れています。
AIの統合と職場の結束を連携させる
生成AIは、多くの企業にとって最優先事項ですが、その恩恵を享受するためには、AIが妨げになるのではなく、社員がAIによって能力を発揮できる状態が実現されなければなりません。AIのメリットを最大限に引き出すには、経営陣の期待と社員の能力のギャップを埋めることが不可欠です。企業は、社員の一体化を図る重要な戦略を導入し、誰もが同じ方向に向かって進む環境を醸成することが必要です。社員それぞれの微妙なニーズを把握し、オープンなコミュニケーションを心がけることで、企業は、AIを気がめいるような義務から力を与えるツールへと変えることができます。包括的なトレーニングと熟考されたガイドラインにより生成AIは日常業務にシームレスに統合され、社員の経験とビジネス成果を共に向上させます。最終的にはイノベーションが活気づくバランスの取れたエコシステムを生み出すことができるようになります。
著者について
Brian Shellhorn(ブライアン・シェルホルン)
ブライアンは、テクノロジー、メディア、エンターテインメント業界におけるマーケティング・オペレーショナル・エクセレンスを専門とし、20年以上の実績を持つビジネスエグゼクティブです。一流ブランドと協業するチームを率い、成長を促進し、効率性と収益性を高めるためにマーケティング業務を合理化しています。クライアントに信頼されるアドバイザーとして、複雑な現代マーケティングの世界をナビゲートする戦略的ガイダンスを提供しています。ブライアンはコロラド大学でコミュニケーション学の学士号を取得し、臨時雇用労働力の専門家として認定されています。現在、コロラド大学コロラドスプリングス校の戦略AIプログラムのプログラム・アドバイザーを務めています。
Jeffrey Burt(ジェフリー・バート)
ジェフリー・バートはジャーナリストとして30年以上のキャリアを持ち、2000年からIT業界に関する記事を執筆しています。データセンター・インフラやクラウド・コンピューティングから、AI、サイバーセキュリティ、量子コンピューティング、開発者ツールまで、幅広いテクノロジーを網羅し、eWEEK、The Next Platform、The New Stack、SecurityBoulevard、Techstrong.aiなどのニュースサイトに寄稿しています。