Skip navigation

心を動かすデザインとは

By: Aquent

〜価値をカタチにするヒント〜
LAST UPDATED: 2025/03/05

私たちAQUENTは、「Adobe MAX Japan 2025」のスポンサーとして出展し、多くのクリエイターの方々と交流することができました。また、当日は、ロンドンと東京に拠点を置くクリエイティブスタジオ「3AND」のクリエイティブディレクター SAKIKO KOBAYASHI 氏をお迎えし、「心を動かすデザインとは」をテーマにトークセッションを行いました。
今回は、当日のセッションの内容を詳しくご紹介いたします。

【DIGITALKS OFFLINE CONTENTS】

プロローグ
心を動かすデザインとは
「共感」を生む核心
「共創」するストーリー
「共振」を引き起こす表現
VERMICULAR HOUSEの事例
FC TOKYOのエンブレム リデザインの事例
エピローグ

プロローグ

「あなたの好きなブランドはなんですか?」と聞かれて何を思い起こしますか?

AQUENTのエージェントである西願の問いかけで始まったプロローグでは、モノの機能性を重視して商品を購入する時代から、商品の意味や価値を重視する時代へと変化してきていることが伝えられ、企業が一方的にブランドイメージを伝えるのではなく、顧客の声や評判が重要視され、顧客とともにブランドを共創する時代へと移行し、今、顧客の心を動かすデザインがより求められていることが語られました。

西願と、今回お話しいただいたSAKIKO KOBAYASHI氏の出会いは、まさに心を動かすデザインプロジェクト。2023年にJAXAより火星衛星探査計画MMXミッションのために国内外のメンバーの気持ちを一つにするミッションマークを作ってほしいと依頼されたことにさかのぼります。

エイクエントが事務局となって実施したデザインコンペで、選考を勝ち抜いてグランプリに選ばれたのがKOBAYASHI氏のデザインでした。
デザインのコンセプトは「輪」。人々が集まってこの輪をどんどん大きくしていくという意味が込められています。このミッションマークが、今ではプロジェクトメンバーを支えています。このように、たくさんの人の心を動かすデザインはどのように生み出されるのでしょうか。

心を動かすデザインとは

心を動かすデザインの重要性が増している背景には、テクノロジーの進化があると語るKOBAYASHI氏。便利で効率的なツールが増えて自動化が進む中、逆に人間らしさへの回帰が重要視されてきており、これは、機能的な満足を超えて、感情に働きかけるデザインが求められるようになり、感情的な豊かさに対する要求が高まっていることを示していますと述べていました。


ここでは、心を動かすデザインを生み出す3つのステップとして、重要な要素である「共感」「共創」「共振」からなるブランドナラティブについての解説がありました。

「共感」を生む核心

ここではブランドの理念や価値などのブランドコアを明確にしてオーディエンスとの深い共感を生み「核」を築くことが重要です。それを論理的に伝えていくだけでは無機質になってしまうので、共感を生み出すためには人間らしさを引き出すことがポイントになります。ブランドの癖やこだわり、独自の視点、時には不完全なことも魅力として表現することで、リアルで共感できる存在へと変わっていくでしょう。

「共創」するストーリー

一般的にブランディングではストーリーやオーディエンスの反応までも設計することが多いのですが、価値観が多様化する現在において、ブランドが一方的に完結したストーリーを伝えていくのでは、共感を得ることが難しくなってきています。「共創」を促すためにはオーディエンスを引き込む余白を持たせることが効果的です。この「余白」があることで人それぞれの解釈を許容したり、想像を掻き立てたりさらには偶発的な体験も生まれます。このようなオーディエンスとの有機的なインタラクションを通じてストーリーはよりパーソナルなものへと進化していきます。

「共振」を引き起こす表現

ブランディングにおける共振とはデザインの展開を通してブランドストーリーが広がり、オーディエンスの感情や価値観に響く状態を示します。

「共振」を起こすためには一貫性と可変性を両立させた変化を受け入れる一貫性というものを持ち、ブランドの軸を保ちながらも時代やタッチポイントに応じて柔軟に変化することが重要です。視覚的な統一だけではなく、ブランドのストーリーや意味に深みを持たせた展開にすることで、生きたブランドとして広がり、「共振」を生み出していくのです。

VERMICULAR HOUSEの事例

ここでは、KOBAYASHI氏が手掛けたVERMICULAR  HOUSEのブランディングについて事例をもとにした解説がありました。

VERMICULARは愛知ドビーが手掛ける鋳物ホーロー鍋のブランド。このプロジェクトではVERMICULAR HOUSEという体験型施設のブランディングを担当しました。施設内にショップやレストラン、デリ、お料理教室が併設されており、訪れた人たちがブランドの世界観に触れながらその魅力を体験できる場となっています。
KOBAYASHI氏がデザインの過程で「共感」を生み出す軸となったのは、彼らのモノづくりへの精神。そして次のようにデザインの過程を説明しました。

「私が非常に驚いたのは、VERMICULARの鍋の淵は手作業で20分もかけて完璧に磨かれるのです。その妥協しないこだわりとブランド全体に息づくアート性をデザインの展開をする際にも大切にしました。ロゴはVERMICULARの象徴でもある鍋を意味する丸い形に精密さと手作業による人間らしさを融合させて表現しております。


鍋の中で様々な料理が作られるのと同じように、このロゴも多様な意味を反映し自由に展開できる余白を持っています。単なるシンボルではなくブランドとオーディエンスが共にストーリーを作る、「共創」を促す役割を果たしています。そうした価値観を伝えるためにタッチポイントの展開においては、統一性と可変性を兼ね備えた柔軟で多層的な仕組みを考えました。施設外で使用されるアプリケーションに関しては、ブランドの認知を高めるために、アイコンに丸いマークを統一感を持って展開しています」と語っていました。

一方、施設内での体験ではVERMICULARの空間が既に認知されているためブランドストーリーを伝えることに焦点をあてていると話すKOBAYASHI氏。ロゴや均一なグラフィックによるブランドからの主張はあえて控えめにして、代わりに小さなストーリーをちりばめることでオーディエンスの興味を引き、もっと知りたくなるような仕掛けをしています。


料理を楽しむという軸に基づき、例えば、左上にあるレストランのメニューではパスタをゆでたり、野菜を炒めたり鍋の中で料理が作られている様子を模様として表現しています。右上のギフトバックでは製品に施された機能的な模様に着目し、普段は気づきにくいデザインの特徴を強調しています。このようにブランドの軸をしっかり持つことで、様々な角度からメッセージを伝え、オーディエンスとの深い関係を築くことができると述べていました。

FC TOKYOのエンブレム リデザインの事例

ここでは、FC東京のエンブレムのリデザインの事例の解説がありました。KOBAYASHI氏はこのプロジェクトで、継承と核心をテーマに、FC東京の伝統を尊重しながら、未来への核心と挑戦を象徴するデザインを目指したことを伝えていました。

「エンブレムのデザインでは、多様な文化と人々が交じり合う東京という街を、そしてクラブの多様性をそれぞれの意味を持った3種類のストライプで表現しています。また、サポーターの存在を意味する要素をデザインに組み込み、サポーターもチームの一人として引き入れる余白を設けています。
これによりサポーター、選手、クラブが共に歩む思いを凝縮したエンブレムになっています。アプリケーションの展開やオリジナルの書体の開発においてもエンブレムに含まれる思想や右上がりの角度、ストライプなどのグラフィック要素も反映して力強く表現しています。これによりエンブレムを中心としたビジュアルアイデンティティーを構築し、クラブの理念や価値観を様々な角度から伝えています」と述べていました。

最後にKOBAYASHI氏は、プロジェクトにおいて、異なるアプローチがそれぞれの最適解を導くことを理解することが重要で、一つの方法だけに囚われず、様々な視点を持つことが求められること、さらに、心を動かすデザインは、独自の理念を人間のストーリーとして表現し、オーディエンスとの対話を通じて形成されるものであるとまとめています。

エピローグ

セッションの最後に、これからのデザイナーに求められることとして、

・ARTとSCIENCEのバランス
人間らしいみずみずしい感性で感じ取り、論理を持って組み立てていく力。

・ストーリーテリングの力
言語化と視覚化を通じて物語を紡ぐ力。

・出会いを楽しむこころ
時代が移り変わっても、人間の心はあまり変わらず、新しい経験や予期せぬ出会いを楽しむことが、人間のクリエイティビティの基盤。

このように、人間の心の根底にあるものは、変わらない側面を持ちながらも、創造的な可能性を引き出す要素であると西願がまとめました。


【登壇者】

SAKIKO KOBAYASHI
3AND / Creative Director

ロンドンと東京に拠点を置くクリエイティブスタジオ、3ANDのCreative Director/Partner。
ロンドンのデザインエージェンシーJKR Global、Here Designを経て、3ANDを設立。ブランディングを軸に、パッケージ、ロゴ、体験、空間、ウェブ等を総合的に手がける。
D&AD, ADC AWARDS, THE ONE SHOW, NEW YORK FESTIVALS, PENTAWARDS,DBA など国際的な賞を多数受賞。D&AD、iF DESIGNの審査員。

西願 真弓 | Mayumi Saigan
エイクエント・エルエルシー/Agent

神戸大学国際文化学部卒業。旅行会社勤務を経て、ロンドンのアートスクールでインテリアデザインを学ぶ。帰国後、都市プロデュース会社で空間プロデュースとまちづくりを経験。
2006年にエイクエントに入社し、東京でブランディング・クリエイティブ領域を手がける。2012年からは名古屋を拠点にデザイン、デジタル、マーケティング領域の人材ソリューションを提供中。多彩な企業とプロフェッショナルのご縁をつなぐパートナーとして伴走を続けている。