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「視点を変える瞬間が一番面白い」

By: Aquent

~壁を越えてカタチにするAI時代のサービスデザイン~
LAST UPDATED: 2026/08/06

新しい変化が次々と生まれるクリエイティブ・マーケティングの世界。
その最前線に立ち、独自の感性としなやかなスタイルで変革をリードするクリエイターたち。そんな彼らの飾らない本音と、そこから見つけた様々なヒントを、クリエイターの皆さまにお届けします。

リレーインタビュー第1回は、東京ガス株式会社のサービスデザイナーとしてご活躍中の水野 太(みずの ふとし)さん。これまで、数々の現場でサービスデザインに携わり、ユーザーの本質的な価値を追求し続けてきた水野さんに、「AI時代のデザイナーのあり方」についてお話をお伺いしました。

Q.現在、サービスデザイナーとしてどのような領域をメインに担当されているか、簡単にご紹介いただけますか?

所属はコンシューマー向けの戦略サービスを企画・開発する「リビング戦略部」ですが、入社直後からデザイナーが一人もいない再生可能エネルギー領域の現場へ越境し、組織開発を含めた、全体立ち上げの伴走支援を行っています。

具体的には、ガスではない、ソーラーパネルや蓄電池などを活用した分散型エネルギー社会に向けた、未来のエネルギーサービスデザインや、給湯器やコンロ、お風呂周りの機器などを扱うECサイトのリニューアルを含めた、サービス自体のリデザインに取り組んでいます。

140年の歴史を持つインフラ企業において、ガスを供給する、製品を売るだけでなく、東京ガスとお客さまの関係性を再定義し、脱炭素社会に向けて、生活者にとって意味のあるサステナブルな体験とビジネスモデルをどうつくるかという問いに向き合いながら、デザインのエッセンスをもとに、ビジネスと開発を繋ぐ役割を担っています。

Q. AIの導入によって、クリエイティブ制作のプロセスやスピードは以前と比べてどのように変わりましたか?

課題理解からソリューション構築へと進む従来の「ダブルダイヤモンド」のプロセスにおいて、前段のスピード感は劇的に変わりました。

リサーチデータのログ整理や構造化が爆速で行えるようになり、自然言語から一瞬でUIやプロトタイプが立ち上がる。これまで数週間かかっていた議論の準備が、場合によっては20〜30分で完了するため、プロセスの前段がかなり圧縮されています。

しかし重要なのは、作るスピードが上がった分、人間の役割が、確かめる/問い直すことへシフトしている点です。

UX(ユーザーエクスペリエンス)の先駆者、ドナルド・ノーマンが訴えているように、AIが意思決定や行動を代行する時代になるほど、使いやすさ(HCD)を超えて、透明性・倫理・責任の所在といった社会や未来に対して健全か “Humanity Centered”を問う設計が、これからのUXの中心に入ってくると感じています。

Q.AIの導入により、現場で感じているメリットや危機感について教えてください。

メリットは、思考の整理や仮説検証のサイクルが圧倒的に速くなり、ステークホルダーと本質的な問いについての議論をすぐスタートできることです。一方で強い危機感を感じているのは、AIが出すそれっぽい平均的なアウトプットに満足し、思考を止めてしまうことです。

AIの均質化されたデータには、生身のインタビューで感じられる言葉の裏に含まれるニュアンス、そのときの表情や目線、しぐさ、その場の空気感といった解像度の高い情報は含まれません。

AIのもっともらしさに安住し、この現場の生々しいニュアンスを埋め込む泥臭さを手放してしまうと、どこにでもあるありきたりなサービスになってしまう。効率化の波の中で、チームのコア(軸)を葬ってはいけないという強い問題意識を持っています。

Q. 効率化が進む一方、デザイナーがセンスや体感、そして自ら判断する力を養う機会が減りつつある現代において、次世代のデザイナーはどうやってその基礎体力を補うべきでしょうか?

東京ガスのサービスデザイナー水野太氏がインタビュー取材で回答している様子

AIが統計的な最適解をすぐに出す時代だからこそ、意識的に自らの「問いの筋トレ」を行う必要があります。具体的には3つのアプローチを勧めています。

1.フィジカルに現場へ行き、一次情報に触れる
画面越しではなく、直接ユーザーやモノ、場の空気感という膨大な情報量を身体感覚として吸収すること。

2.「3割発進」で即行動する
完璧な精度を待つ必要はありません。解像度30%の雑なアウトプットだからこそ、むしろ周りの議論が沸き起こり、コミュニケーションがぐっと滑らかになります。
雑さ=”余白” を恐れず、即座に形にして対話のサイクルを回すマインドが大切です。

3.アウェイな領域へ越境する
同質化した組織から飛び出し、共通言語のない専門家と歩み寄るプロセスを経験する。この弱いつながりの摩擦からこそ、AIにはだせない、新しいスパークが生まれます。

Q. 基礎体力の中でも、プロダクトやソリューションをデザインする際の軸となる、課題を見つける・仮説を立てる力は、どのように養ったらよいですか?

着眼点をどこに置くかは、デザインのプロセスの中でも本当に大事なところだと思います。
着眼点はセンスや才能ではなく、問題(Problem)と課題・着眼点(Issue/Point of View)を明確に分けて考える場数で鍛えられます。

例えば、「コロナ禍で体重が増えた」という問題があるとします。 これに対して「どうすれば痩せられるか」という着眼点を立てると、「運動する」「食事制限をする」というソリューションが導かれます。

他方、「どうすれば誤魔化せるか」という別の着眼点を立てれば、「黒い服を着る」「大きめのシルエットを選ぶ」という全く違う解決策が生まれます。
問題をどう捉え、どこに着眼して課題を見つけるか、タックルするかを決めるこのプロセスこそが、デザインにおいて最も苦しく、同時に最も面白いコアな部分です。データ整理はAIに任せても、この問いの切り口を決める作業だけは人間が絶対に手放してはいけません。

Q.AI時代に、水野さんが大切にしていることは何ですか?

これまで、多様なデザインプロジェクトを進める中で、対話も重視し、時には激論を交わし対立も厭わず、建設的にモノづくりに挑んできました。

今の時代、AIを使えば、極論1人でもモノが作れてしまう時代です。しかし効率化と引き換えに、本来人と人が向き合う中で生まれていた「手触り感」や「熱量」が削ぎ落とされていく感覚を、誰もが抱いているのではないでしょうか。

だからこそ僕は、AIでスピードを上げつつも、あえて人と人がFace to Faceで建設的にぶつかり合う場を意図的にデザインしています。特に、専門性が異なる人々が集まるアウェイな現場(越境)や弱いつながりにおいて、AIの出力を鵜呑みにせず、違和感を持ち寄って議論する。そこで生まれる人間同士の信頼と合意形成こそが、AIには踏み込めないブレイクスルーを生む鍵になります。

Q.最後に、次の一歩を踏み出そうとしている読者のクリエイターやマーケターに向けてメッセージをお願いします。

東京ガスのサービスデザイナー水野太氏がインタビュー取材にて笑顔で語っている様子

AIの進化により、従来のオペレーション作業は急速に姿を消していきます。しかし、だからこそ
「それって本当に面白いの?」
と自らに問い続けることが大切です。

世の中の進化スピードは凄まじく、数年前に「できたらいいな」と語っていた技術が、今や当たり前のように実現しています。

人間は、自分が思いついたことしか実現できない…
だからこそ、変化や不確実性を恐れて固定観念に固執するのではなく、未来にワクワクしながら手触り感のある変化を楽しんでほしい。不確実な計画を抱え込まず3割発進で軽やかに越境し、仲間と共に新しい価値を紡いでいきましょう。


【Interviewee】

Smiling man leaning on a railing on a rooftop, wearing a navy hoodie and headphones around his neck, sunny urban background.

水野 太 氏
東京ガス株式会社 サービスデザイナー

15年以上にわたりUXデザイン、デザインリサーチ、デザインリーダーシップの分野で活動。Fintech、自動車、デジタルメディアなど多様な業界、グローバルエージェンシーにおいて、ユーザー中心の問題解決とビジネス成長を実現してきた。

2025年、東京ガス株式会社初のサービスデザイナーとして参画。デジタルプロダクト開発組織に所属しながら、他部署で担う再生可能エネルギーや、家庭内ガス機器販売Webサービス・プロダクト開発において、サービスデザイン、アジャイル開発、サービスデザインスプリントなどを駆使し、組織変革と具体的なプロダクト開発の両輪を牽引している。HCD-Net認定 人間中心設計専門家。

※法人名、組織名、役職、インタビューの内容等は取材当時のものです