AQUENTでは、様々な業界や職種における最新トレンドや課題、その解決につながるヒントの提供や啓発を行うべく、グローバルで「DIGITALKS」と呼ばれるウェビナーを行っています。
今回、日本で開催された第5回目のウェビナーでは、ゲストスピーカーに株式会社 博報堂プロダクツAI Craft Studioより上級ジェネレーターの為広 晋吾氏と細野 潤一氏をお迎えし、カオスで勝機を見出す、AI時代のクリエイティブ制作の視点についてお話しいただきました。
この記事では、当日のセッション内容をまとめてご紹介いたします。
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【DIGITALKS Contents】
効率化や自動化だけじゃないAIの可能性:エイクエント
カオスで勝機を見出す:AI時代のクリエイティブ制作の視点:博報堂プロダクツ
・AI広告の、いま
・AI Craft Studioという挑戦
・AIクリエイティブとは
・カオスを勝機に
AIとの向き合い方:博報堂プロダクツ&エイクエント
クロージング:エイクエント
効率化や自動化だけじゃないAIの可能性:エイクエント
ウェビナーの冒頭では、エイクエントのシニアマネージャーである的場が、効率化や自動化だけではないAIの可能性について次のようにまとめました。
効率化のその先へ。個人×組織のチカラで創り出す、制作の未来
クリエイターやマーケターの皆様をはじめ、専門人材を採用する現場でも、AI活用に対する関心は日々非常に高まっています。AIの魅力として業務の効率化や自動化が注目されがちですが、本来の大きな可能性は制作物のクオリティ向上にあります。
しかし実際の現場では、増え続けるAIツールの選定や活用方法、さらに品質を維持するための人の関わり方やプロセス管理において課題が多く、運用の手探り状態が続いているのが現状です。加えて技術の進化スピードが極めて速いため、個人レベルでの情報収集や対応には限界を迎えています。
これからは個人の努力だけに委ねるのではなく、組織全体で知識や経験を共有し合い、チーム一丸となってAI活用を推進していくことが求められています。
そんな状況の中で、いち早くAIの組織化とAIでハイエンドな クリエイティブ制作に取り組んでいるAI Craft Studio上級ジェネレーターの 為広さんと細野さんに具体的なお話を伺っていきたいと思います。
カオスで勝機を見出す:AI時代のクリエイティブ制作の視点:博報堂プロダクツ
ここでは、AI Craft Studioの為広氏、細野氏より「カオスで勝機を見出す」というテーマのもと、現場の最前線でAIをどのように活用しているか、またAI Craft Studioが目指す、領域を超えての協業関係についてお話しいただきました。
AI広告の、いま

国内の動画広告市場は、2025年に約8,800億円規模となり、2029年には約1兆6,300億円にまで成長すると予測されています。一方でAI活用の先進国であるアメリカでは、2026年までに動画広告の40%が生成AIによるクリエイティブに置き換わると見込まれています。
こうした需要の急増に伴い、スピードや低予算を重視した低品質なAIクリエイティブが市場にあふれ、似たり寄ったりの表現が氾濫することが懸念されています。
そのような中でAI Craft Studioは、単なる制作期間やコストの削減を目指すのではなく、各領域のプロフェッショナルがAIを駆使して本来のブランドらしさを追求し、最終的な制作物のクオリティを高めていく取り組みに挑戦しています。
AI Craft Studioという挑戦

AI Craft Studioは、さまざまな専門人材を擁する総合制作会社が事業本部を横断して結成したAIクリエイティブ組織です。
当スタジオでは、一般的な制作領域の職種とは違う、新たな職能として上級ジェネレーターを設定し、AIを駆使して成果物を最後まで作り切る体制を整えています。この組織の大きな強みは、従来型の制作で培ったプロの審美眼、複数AIを使いこなす技術力、そして厳しい法務や倫理基準に基づく高度なガバナンス意識にあります。
人海戦術でAI生成を繰り返す大量制作ではなく、プロとしての判断力と強固なチーム連携によって高品質なアウトプットを主体的にコントロールし、クライアントのブランド価値を確実に高めるクリエイティブを提供しています。
AIクリエイティブとは

AI動画制作には、大量生産と自動化を重視したオートメーション型と、最高品質の一点物を目指すオートチュール型という2つのアプローチが存在し、ブランド価値を高めるためにはオートクチュール型でアプローチする必要があります。
実際のAI動画制作では、企画に基づく設定資料の作成から画像・動画・音楽などの素材生成、編集作業まで、人間によるディレクションや判断が不可欠であり、非常に緻密な工程を経て完成に至ります。
制作過程で直面する表現の難しさに対しては、ボタン一つで解決するのではなく、多様なAIモデルの特性把握、プロンプトの工夫、撮影やCG技術の融合といった多角的なアプローチによって目指す表現を実現していきます。特に重要となるプロンプトの精度は、クリエイター自身が持つ表現への解像度や言葉の引き出しの多さに左右されます。
AIへ指示を出すだけでなく、目指すべき表現を具体的な言葉に落とし込むプロの思考とノウハウがあってこそ、クオリティの高いAIクリエイティブが完成します。
カオスを勝機に

数多くのAIツールが急速に増加・多角化しているため、現場で使いながら知識や実績をノウハウとして蓄積していく重要性が増しています。
一方で、従来の縦割り組織ではAIの役割分担が難しく導入が進みにくい点や、AIの活用によって職種ごとの境界線を越えた制作が可能になる点が現場の課題として挙げられます。しかし、この職能の超越を肯定的に捉えることで、プロデューサーやコピーライターといった従来の役割を超えて最終的な制作物の品質に直接寄与できるようになり、組織における新たな革新と成果へとつながっていきます。
カオス化するAI領域で勝機をつかむためには、2つの取り組みが大切です。
一つは、AIをチームの共通言語として活用すること。日々更新される膨大な最新情報を個人だけで網羅することは困難なため、社内コミュニティで情報交換を行いながら組織全体で知見を高めていく姿勢が求められます。
もう一つは、職種ごとの役割にとらわれない職能の越境を歓迎することです。
各自が最終的な成果物のクオリティにコミットし、お互いの状況や能力を理解しながら活発に意見を戦わせる環境を整えることで、最高のクオリティを生み出す環境ができるのではないでしょうか。
AIとの向き合い方:博報堂プロダクツ&エイクエント
ここでは、これからのAIとの向き合い方についてエイクエントの的場より質問しながら、為広氏、細野氏にお答えいただきました。
Q. AI活用を組織化できた理由
為広氏:組織化と言うと、トップダウンのイメージがあると思うんですが、AI Craft Studioは元々制作領域のプロフェッショナルが集まっていて、「ものづくり」が好きな人たちが多かったので、自発的にAIを活用している人も何人かいました。
最初はAIに関心のある社内メンバー25名が集まり、上級ジェネレーターという新しい職種として研究をスタートしました。メンバーが主体的に取り組んだことで取り組みは一気に広がり、今では100名規模の組織にまで成長しています。
このように、まずは可能性を感じている社員に推進役を任せ、彼らの熱量を起点にして周囲へ展開させていったことが、組織化を成功させた大きなポイントだと思います。
細野氏:AIの活用では、セキュリティなどのルールを守ることも大切ですが、やりたい人のやる気を奪わない工夫も大切だと思います。AIを使いたい意欲のある社員をきちんと指定し、特別に使える範囲や、環境を整えることで、安全性と自由な挑戦を両立させました。
さらに、これまで部署でAIに詳しいのが自分だけだった人たちをひとつの場所に集めたことで、内容の濃い情報交換やお互いに高め合う良い流れが生まれています。意欲のある人たちが安心してアイデアを深め合える場所を作ることが、組織全体でAI活用を進める大きなきっかけになります。
Q. AI活用の属人化リスクとは?
細野氏:AIの進化がとても早い中で、リスクを恐れて、とりあえず禁止にしてしまうと、会社の成長のチャンスを逃してしまうかもしれません。
というのも、社内には必ずAIを使ってみたい!という意欲的な社員がいます。そうした人たちを禁止で遠ざけるのではなく、しっかり見守りながら「ここまでの範囲なら使ってOK」と正しく後押ししてあげるほうが、安全で良い成果につながります。
また、AIの情報は進歩が早すぎるため、1人だけで最新情報を追いかけ続けるのは不可能です。だからこそ、AIを活用するチームを作り、みんなで情報をシェアして常に知識を新しくしていくことが大切だと思います。
為広氏:属人化リスクの裏を返して、属人化させないことがチャンスだと考えています。一人がAIを使いこなせるようになっても、その知識やノウハウが個人の中に留まったままだと非常にもったいないことです。
実は、職種やチームの垣根を越えてお互いのやり方や技術を共有し合うことで、一人で学ぶよりも何倍も早いスピードでAIやプロの専門知識を吸収できるようになります。情報があふれる今の時代だからこそ、一人で抱え込んで悩むのではなく、仲間を集めて知識や体験をシェアし合い、刺激を受けながら一緒に成長していくことに大きなチャンスがあります。
Q. 「AIガチャ師」にならないためには?
細野氏:大量に画像を生成して偶然良いものができるのを待つアプローチも理解はできます。ただ、最も大切なのは良いクリエイティブを狙って何度も作れる再現性です。
たまたまできた作品に頼ってしまうと、次の制作で同じような高いクオリティを出せなくなってしまいます。ですから、プロンプトの試行錯誤を出た・出ないで終わらせず、どのような指示でその結果になったのかを整理し、記録として蓄積していくことが大切です。
AI Craft Studioの場合ですが、動画生成AIは1回の実行ごとに大きなコストが発生するものもあるため、やみくもに試すのではなく、費用を意識した効率的な作り方を身につけ、ノウハウをチーム全体で共有していく姿勢が求められます。
為広氏: AIをうまく使いこなせずに何度も試行錯誤を繰り返してしまうAIガチャのような状態には、大きく2つの原因があります。
一つ目は、AIの仕組みを正しく理解していないことです。文脈を理解する仕組みやAIの記憶の範囲など、AIの構造を知らないまま使っていることで、そのポテンシャルを引き出しきれていないケースが多く見られます。
もう一つは、AIが出してきたアウトプットの良し悪しや違和感に気づけるかどうかです。特定の領域でキャリアを積み、明確な品質基準を持っているプロフェッショナルだからこそ、AIに振り回されずコントロールすることができます。
AIの仕組みに対する理解と、プロとしての判断基準の有無が、単なるガチャに陥るかどうかの大きな違いだと思います。
Q. ラストワンマイルは人間であるべきなのか
為広氏:AIはアイデアを高速で広げたり、試案を作ったりするのは得意ですが、どうしても細かい違和感が残ってしまうことがあります。品質を重視するブランド動画や高いクオリティが求められる制作物では、AIに任せきりにせず、最後に人間が細部まで磨き上げることが欠かせません。
実際の仕事で向き合う相手はAIではなく人間です。広告制作をはじめとする各業界には、細かいルールや人間同士のマナー、配慮といったお作法が存在します。
こうした相手を思いやる調整やルールの遵守は、人間にしかできない大切な役割です。最終的な完成度を高め、相手に気持ちよく届けるための最後の1マイルを担うのは、これからも人間であり続けます。
細野氏:ラストワンマイルは、人間がやるべきだと感じています。AIの進化は本当に早くて、今でもそのまま納品できるレベルのものが作れますし、これから数年経てばもっとすごいクオリティになるのは目に見えています。
でも、だからといって全部AIに任せてそれでよしとしてしまうと、私たちが働く意味そのものがなくなってしまいます。むしろ、その最後のひと手間にこそ、人が働く意味やメッセージを伝える意味が詰まっていると思います。
職人のような気持ちかもしれませんが、そうやって魂を込めて良いものを作る精神性はずっと大切です。AIがなくてもゼロからものづくりができる私たちの土台をブレさせず、最後の仕上げは人間が責任を持ってやるという意識を、これからもずっと持ち続けていきたいと思っています。
クロージング:エイクエント
最後にエイクエントの的場より、本セッションのポイントをお届けしました。
AIをクオリティ向上と組織成長につなげるためのポイント
AIを作業のスピードアップだけに使うのではなく、作品のクオリティを高めるパートナーにするためには、クリエイター自身が、自分の強みや好きなことを知って、専門スキルを磨くことがとても大切です。
その上で、AIの得意なこと・苦手なことを理解するためにたくさんのツールに触れ、ラストワンマイルはプロとして責任とこだわりを持って人が行うことが求められています。
また、チームや組織でAIを活用する際のヒントとして、特定の担当者だけが使うのではなく、全員で活用していく姿勢が欠かせません。職種の枠を超えて各自の得意領域や興味、個性を活かした使い方をし、そこで得た知識や経験、情報をチーム全体で共有し合うことで、AIを共通言語として育てていくことができます。
こうした取り組みは、個人やチームでの努力はもちろんですが、企業や組織側がその意義を理解し、後押ししていく姿勢もとても大切になってくるのではないでしょうか。
今回、少しでも皆さんのビジネスや、キャリアの役に立つ内容をお届けできていたら幸いです。これからもAQUENTでは、様々なテーマで業界の最新トレンドを発信していきます。
【登壇者】

為広 晋吾 | Shingo Tamehiro 氏
株式会社博報堂プロダクツ
AI Craft Studioプロデューサー・上級ジェネレーター
滋賀県出身、2014年 博報堂プロダクツ入社。TVCMなど映像制作領域のプロデュース職に12年間携わり、現在は撮影・編集・CGなど従来技術と生成AIを組み合わせた映像制作手法の開発を推進。人間の感性や手触り感を、最新テックでどのように表現するかを日々研究しています。

細野 潤一 | Junichi Hosono 氏
株式会社博報堂プロダクツ
AI Craft Studioプランナー・コピーライター・上級ジェネレーター
神奈川県出身、2014年 博報堂プロダクツ入社。プロモーションプランナー、Webプランナーを経て動画領域へ。AIと出会って沼にハマった異色の企画屋。社内インフルエンサーとしてAIの魅力を積極的に発信。わかりにくいことをわかりやすくがモットーです。

的場 大輔 | Daisuke Matoba
エイクエント・エルエルシー
人材派遣事業 西日本エリアマネージャー
大阪府出身、2007年 エイクエント入社。クリエイター・マーケターのキャリア支援と、メーカー・広告代理店・制作会社などへの採用コンサルティングに従事。2024年1月より名古屋・大阪・福岡の人材派遣事業を統括する西日本エリアマネージャーに就任。タレントとクライアントのベストマッチを実現するチーム作りに力を注いでいます。