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フューチャーデザインの実践 〜未来型思考のテクノロジーとイノベーションの土台〜

By: Aquent

PwCコンサルティング合同会社 Future Design Lab三山 功 氏インタビュー【第2回】
LAST UPDATED: 2025/12/24

従来の延長線上ではない、革新的な成長を志向し、予測困難な未来を能動的に捉え直すという経営ニーズに応えるため、今、大きな注目を集めている「フューチャーデザイン(Future Design)」。

第1回の記事では、フューチャーデザインの概要、PwCコンサルティング合同会社(以下、PwCコンサルティング)のFuture Design Lab(フューチャー・デザイン・ラボ)の発足背景や、コンサルティングを通じてフューチャーデザインを実現していく仕組みについて取り上げました。

続く第2回はフューチャーデザインの実践について、三山 功氏にお話をお伺いしました。

Future Design Lab発足以降、クライアントからはどのようなご相談が寄せられますか。

Future Design Lab(以下FDL)へ寄せられる最も一般的な要望は、新しい中期経営計画や長期ビジョンを策定する際に発生する、未来の理想像とその実現戦略に関する一連のプロセス支援です。
クライアントは、未来のビジョン設計から具体的な戦略策定、そして組織への落とし込み・実行支援までを、途切れのないシームレスなサービスとして一貫して提供してもらうことを強く要望しています。

当社ではFDLと、論理的思考や分析に特化した戦略コンサルタントチームが緊密に連携し、FDLがデザインした未来のビジョンと、そこからバックキャスト(逆算)して導き出した3年や5年単位のイノベーションアジェンダ(革新的な行動計画)を、具体的な行動計画、事業戦略へと落とし込み、さらにはそれを実行するための組織体制にまで適用できます。

2つ目は、より具体的な組織や技術戦略の構築に関する支援です。
最近の例ですと、望ましい未来のビジョンを実現するために、具体的にどのようなイノベーションを起こす必要があるのか、そのテーマや課題を明確にした事業計画への落とし込みまでをサポートしました。

また、10年後や15年後の社会像を詳細に描き出し、その未来を実現するために現在主流ではないが将来不可欠となる技術を見極め、それらの技術を実際の事業に取り込むための司令塔となる組織をクライアント企業内に立ち上げ、構築するといった支援も行っています。このような支援を通じて、企業は長期的な視点からテクノロジーを活用するための土台を築いていくことができます。

3つ目は、最近のトレンドであるAIエージェントや生成AIを活用したプロダクトやサービスの開発支援です。FDLのプロダクトマネージャーや、高いスキルを持つデザイナー、エンジニアといった専門チームがクライアントと協力し、アジャイルに開発を進めていく。開発後も、市場に受け入れられ成功するプロダクトマーケットフィットを達成するまで、徹底的に伴走します。

ユーザーテストの結果、戦略の方向転換が必要になった場合は、詳細なリサーチを実施し、必要に応じてクライアントを海外のイノベーションツアーへ案内するなどして、最適な方向性を探り、それが決定した後もプロダクトマーケットフィットを目指して進めていく、開発寄りのプロジェクトも手掛けています。

そうした流れから言うと、最近手掛けるプロジェクトは、かつて「フューチャー(未来)」という言葉から想像しやすい初期の頃のプロジェクトとは異なり、描いた未来をイノベーションにつなげて、具体的なビジネスインパクトを生み出すことが不可欠です。
そのため、単なる戦略立案だけでなく、具体的な実行や開発を伴う実践的なプロジェクト
が増えてきているように感じます。

Future Design Labで注力しているテクノロジーについて教えてください。

FDLが現在最も注力しているテクノロジーは、やはりAI。
AIエージェントや生成AIなどの技術を活用することで、FDLが提供する未来のデザインや戦略策定といったプロセス、および提供するサービス自体の生産性を飛躍的に向上させることを目指す取り組みです。

FDLでは、AIを単なるツールとして使うのではなく、AIがフューチャーデザイナー、フューチャーストラテジスト、フューチャーテクノロジストといった専門家たちと協調しながらコラボレーションする存在として位置付けています。未来のビジネスの予兆を見つける段階から、ビジネスアイデアの創出、具体的な戦略策定、そしてプロダクトデザインに至るまでのそれぞれの段階にAIを融合させます。これにより、関わるメンバーそれぞれの能力を大幅に拡張し、対応できるビジネス領域を広げていくことを目指しています。

具体的には、生成AIなどの技術を使うことで、通常のサービスデザイナーやUI/UXデザイナーが専門外とするグラフィックデザインやコミュニケーションデザインといった領域の入り口まで、自身の能力範囲を広げられるようにすることを目指しています。このように、AIと専門家が補い合うことで、一人ひとりが多岐にわたる高度な業務をこなせるよう、チャレンジしていこうと考えています。

フューチャーデザインは従来の「戦略立案」や「デザイン思考」とどのような違いがあるのでしょうか?

従来のストラテジーコンサルティングとの違い

論理的に証明可能な合理的な戦略をクライアントに提供することは、ストラテジーコンサルティングの最も重要なミッションなので、勿論それは必要です。しかし、それだけだと限界を超えたいというステークホルダーからの要望には応えられません。論理的に証明不可能な部分が内在してもいいから、それを超えたものを提供してくださいと言われたときに、やはり従来のストラテジーコンサルティングですと対応しきれない部分があります。

FDLでは、この従来のロジックでは埋められないギャップを埋めることをミッションとしています。具体的に、デザインリサーチやスペキュラティブデザイン(思索的なデザイン)といった手法を応用することで、論理的に証明はできなくても「こうありたい」という望ましい未来を描き、その未来から現在に遡って考えるバックキャスティングを行うことで、従来の論理の積み上げだけでは導き出せないイノベーションアイデア、戦略、あるいは技術戦略を生み出すことができます。これが、フューチャーデザインと従来のストラテジーコンサルティングとの違いです。

デザイン思考(デザインシンキング)との違い

フューチャーデザインとデザイン思考(デザインシンキング)の最大の違いは、焦点をどこに置くかという点にあります。

デザインシンキングは、ヒューマンセントリックデザイン(人間中心のデザイン)とも呼ばれる通り、究極的には「人間」を起点にしています。その目的は、個人のペインポイント(顧客が抱えている悩みや課題の本質)やゲインポイント(得られる価値やメリット)に徹底的に寄り添い、その課題を解決することで優れたプロダクトやサービスを生み出すことです。しかし、このアプローチだけでは、個人の困りごとを解決できても、結果として生まれるビジネスの規模が小さくなるという限界に直面することがあります。

これに対し、フューチャーデザインは、個人の困りごとを考えるだけでなく、「社会全体」や「人間を超えた存在」を含むより大きな未来とのインタラクション(相互作用)をデザインします。
企業が求めるのは、単なる小さな改善ではなく、100億、1,000億円規模の大きな次世代の事業の柱につながる創造性です。

フューチャーデザインは、この要求に応えるため、個人やコミュニティーの困りごとに加えて、それを取り巻く未来の産業や市場、社会全体のより大きな課題に焦点を当てます。このアプローチにより、パラダイムシフトを促すほどの大きな事業機会を見いだし、その課題を解決する望ましい未来のあり方やシナリオを構想できる点で、デザイン思考とは異なると考えています。

余談ですが、単に社会や産業といった大きな枠組みだけでなく、「自然環境」も重要な対象です。海外では近年、木や海といった自然物や無機物にも意思があると仮定し、それらをペルソナとして設定する手法が使われています。

この手法では、「自然のペルソナ」がどのような痛み(課題)を感じているかを深く思索し、その課題を解決することによって、サーキュラービジネス(循環型ビジネス)などの新たな事業機会を見いだします。Future Design Labでも、こうした人間以外のペルソナを設定する、革新的なプロジェクトに取り組むことがあります。


次回のインタビューでは、チームを支える「フューチャーデザインに関わる人々」についてお話をお伺いします。ぜひご覧ください。

▼ PwCコンサルティング合同会社 Future Design Lab 三山 功 氏インタビュー【第1回】はこちら
フューチャーデザインとは ~新たなアプローチの融合「未来創造型コンサルティング」を紐解く〜


【Interviewee】

三山 功 氏
PwCコンサルティング合同会社
執行役員 / パートナー
ストラテジーコンサルティング事業部 Future Design Lab


スタートアップ・外資系コンサルティング会社などを経て、PwCコンサルティング合同会社に入社。ストラテジーコンサルティング事業部においてFuture Design Labを率いるフューチャリスト/ストラテジスト/デザインエグゼクティブ。 戦略的未来洞察、デザイン主導のイノベーション、システム思考を融合するチームを率い、望ましい未来の共創に取り組んでいる。 特に2030年〜2050年頃の未来世界の創造と、それを応用したバックキャスト型の価値共創プログラムを数多く手掛ける。 モビリティ、製造業、ヘルスケア、都市開発など多様な業界のクライアントを支援してきた実績があり、国際的なフューチャー・イノベーションのフォーラムでも頻繁に登壇している。

※法人名、組織名、役職、インタビューの内容等は取材当時のものです