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クリエイティブとマーケティングのこれからを共に考える

By: Aquent

Humans in Design and Marketing: End-of-Year Meetup by Aquent
LAST UPDATED: 2025/12/18

AQUENTでは先日、クリエイティブ、マーケティング、デジタル領域の第一線で活躍されているプロフェッショナルの皆さまが集まり、「Connect(つながる)、Collaborate(相乗効果を生む)、Co-Ideate(共創する)」ことを目的としたイベントを開催しました。

イベントでは、3名のゲストスピーカーをお迎えし、クリエイティブやマーケティングに関するアイディアやナレッジを共有していただきました。

この記事では、イベント当日の様子やゲストスピーカーの皆さまによるライトニングトークの内容を詳しくご紹介します。

【プログラム】
オープニング
ゲストスピーカーによるライトニングトーク
東京ガス株式会社 サービスデザイナー 水野 太 氏
Design for a New Energy Life with Co-Creation: 140年企業が描く脱炭素社会と『共創』の未来像

コンコルド広場に魅せられた「渋沢栄一」の創業ストーリー
現代の公益と脱炭素への挑戦
脱炭素社会実現に向けたサービスデザインとVPP構想
ユーザー共創による脱炭素への取り組みと未来の展望
紹介制ショコラサロン「Aika Kobayashi」代表 小林 愛花 氏
紹介制チョコレートとは? 〜究極のプロダクトアウト〜

感情を揺さぶる究極の価値
究極のプロダクトアウト:美意識を基準とした価値の創出
紹介制が創出する感動体験とブランドの共鳴
プロダクトアウトは未来型の戦略
株式会社フォーデジット執行役員/アートディレクター 石田 康太 氏
デザイナー生存戦略

デザイナーとしての20年間:生存戦略とスキルの確立
自己から「誰かのため」へ。広義のデザイナーへの成長
社会につながる全方位的な取り組みと生存戦略
懇親会の様子
まとめ

オープニング

エイクエントカントリーマネージャの杉本がイベントで挨拶をしている様子

オープニングでは、弊社カントリーマネージャーの杉本が「私たちは、変動が激しい業界において、クライアント、タレントの皆さまの長期的な関係性構築を大切にしており、採用時や転職時だけではなく、長く伴走するキャリアやビジネスパートナーとして役立つインサイトをお届けし、今後も様々な活動を行っていきたい」とご挨拶をいたしました。

アクティビティで今年一年の漢字を書いている参加者たち

オープニングが終わり、アイスブレーカーとしてアクティビティを実施。
来場された皆さまに、今年一年を振り返りながら、それぞれの想いを漢字に表していただきました。それぞれがどんな年だったのかを周囲の方々と共有して、会話を弾ませていました。

ゲストスピーカーによるライトニングトーク

今回のイベントでは、3名のゲストスピーカーの方をお迎えし、クリエイティブやマーケティングに関わるアイディアやナレッジをお話しいただきました。


東京ガス株式会社 サービスデザイナー 水野 太 氏

Design for a New Energy Life with Co-Creation:140年企業が描く脱炭素社会と『共創』の未来像

東京ガスサービスデザイナー水野太氏

コンコルド広場に魅せられた「渋沢栄一」の創業ストーリー

「近代資本主義の父と言われる渋沢栄一。500社以上に亘る事業に携わってきた彼が感じていたのは『東京の闇』。つまり東京の夜の街の暗さでした。

幕末から明治初頭にかけ、日が暮れると活動が制限される東京の状況を憂慮していた栄一は、パリ万博の際に訪れたコンコルド広場で、闇夜を明るく照らすガス灯とその下で生き生きと活動する人々の姿に衝撃を受けました。彼は、その感動と『東京の街を明るくし、文明を開花させたい』という強い思い一つで、採算が合わず誰も手を出さなかったガス事業に35年をかけて取り組みます。

これは、著書『論語と算盤』で説いた『公益』のため、民間の知恵と行動力に経済性を組み合わせて事業を成立させたものであり、その核心は、社会課題を持続可能な事業モデルで解決するDNAとして、140年経った今も東京ガスに受け継がれています。」

現代の公益と脱炭素への挑戦

「東京ガスのデザイナーは、創業者の渋沢栄一がかつて『都会の闇』と戦ったように、現代における『公益』の定義と実践について、事業企画部門と共に議論を進めています。

近年、猛暑や都市部での水害といった異常気象が示すように、私たちは『地球規模の闇』である気候変動に直面しており、これは東京ガスが真剣に取り組むべき問題と認識されています。
そのため、東京ガスのデザイナーが今灯すべき光は、『地球との共生』や『生きるにふさわしい地球を未来に残す』というテーマであり、具体的な行動としては、脱炭素社会の実現への貢献に真摯に取り組んでいます。」

水野太氏が地球とどう共生するかを説明している様子

脱炭素社会実現に向けたサービスデザインとVPP構想

「脱炭素という巨大で難解な問題に対し、東京ガスは現在、従来の集中型・一方通行にならざるを得ないガス事業を継続しながら再生可能エネルギー分野での分散型エネルギーを普及・活用するサービスデザインチームを立ち上げています。これまで利用者はエネルギーを受動的に受け取り、消費する立場で、災害時のエネルギー不安や生活費の高騰に直面していました。
そして、なによりも地球に高い負荷をかけ続けることになっています。

しかし、私たちがいま取り組む分散型エネルギー事業は、利用者自身がエネルギーを能動的に活用するライフスタイルを築きながら、同時に地域や地球との共生を可能にし、本質的な豊かさを手に入れる可能性を高めます。

具体的には、家庭や事業者が蓄電池やソーラーパネルを介して発電ネットワークに参加し、供給と利用の双方向の流れで協力するVPP(バーチャルパワープラント)構想を推進しています。
この仕組みは、利用者が自らエネルギーの使い方をコントロールできる上に、従来のガスに比べて環境負荷が大幅に軽減されることが特徴です。」

ユーザー共創による脱炭素への取り組みと未来の展望

「東京ガスでは、脱炭素という超難問に対し、創業者・渋沢栄一の『論語と算盤』の精神をヒントに、脱炭素社会をリードする企業となることを目指しています。
現在、デジタルサービスを用いたVPP(バーチャルパワープラント)の基盤となる実証実験を11月から開始しており、ユーザーを単なる消費者ではなくパートナーとして巻き込んでいます。
蓄電池やソーラーパネルを所有するユーザーに対し、サービスを実際に利用してもらい、行動観察、インタビューやアンケートを通じて、分散型エネルギー社会を共に創り上げていく仕組みを動かし始めました。
この共創を通じて、企業やエネルギー利用者全体と連携しながら、ユーザーが能動的に地域へ電気を供給したり、自家消費でお得になるような未来の実現を目指しています。

140年企業でありながら、スタートアップのような気概で、痛み(ペイン)を乗り越えて共創で、嬉しい体験(ゲイン)を生み出す仕組みづくりを真剣に進めており、現在、企業内での仲間も着実に増えている状況です。
ぜひ、私たちと一緒に、これからワクワクする社会を作っていきましょう。」


紹介制ショコラサロン「Aika Kobayashi」代表 小林 愛花 氏

紹介制チョコレートとは? 〜究極のプロダクトアウト〜

紹介制ショコラサロン「Aika Kobayashi」代表 小林 愛花 氏

感情を揺さぶる究極の価値

~あなたはチョコレートを食べて鳥肌が立ち涙が出たことがありますか?~

「私のサロンが提供するチョコレートは、単なるチョコレートではなく、食べた人が『鳥肌が立つ』『涙が出る』といった強い感情を引き起こします。
このように、お客様が思い出すだけで感動を覚えたり、予期せず涙を流したりするほどの、感情を揺さぶる体験こそが、このショコラサロンの提供する独自の価値なのです。」

究極のプロダクトアウト:美意識を基準とした価値の創出

「サロンが実践する『究極のプロダクトアウト』とは、市場調査ではなく『美意識』を基準とするものづくりであり、全盲のピアニスト辻井伸行氏のコンサートのような、心が震える感動をチョコレートで伝えることをベンチマークとしています。

この妥協ゼロの世界観を実現するため、物理学科出身の知識を活かし、1度単位の厳密な温度コントロールによって、分子構造が綺麗に並ぶことで生まれる究極の艶を追求しています。
また、中のキャラメルやガナッシュの水分量まで計算に入れ、水分の高いものから香りが立ち上がるよう、香りの余韻と立ち上がり方を緻密に設計し、お客様が世界観に浸れるように工夫しています。
さらに、食材は産地ではなく、世界一周の旅で『すごい』と感じた作り手からの個人輸入で選び抜いています。そして、『紹介制』という仕組みは、本当にどこにもない価値を真に求める人にのみ届けることで、価値を最も美しい形で最大化させるものであり、この希少性によって、4粒で1万円という高単価でも事業として成立しています。」

小林愛花氏が自身のマーケティングについて語る様子

紹介制が創出する感動体験とブランドの共鳴

「サロンでは、バレンタインの年一回の募集を除き、基本的に紹介でのみ購入できるシステムを採用しており、新規顧客は最大半年間の待ち時間が発生することもありますが、顧客からは『待っている時間もワクワクする』という好意的な反応を得ています。

『買えない時間』は、単なる待ち時間ではなく、興味と期待感を熟成させ、半年後にようやく手に入れたチョコレートを味わい尽くす際の感動と満足度を飛躍的に高める効果があります。
この紹介制システムは、希少性、世界観、そして感動体験を核として成立しており、紹介を受けた顧客は自分だけが知る誇りを感じながら味わい、また他者に紹介する際も優越感をメリットにできます。
さらに、熱心なファンはブランドの守護者として初期から応援し、圧倒的な共鳴と満足度を伴いながら、この独自の価値を広めています。」

プロダクトアウトは未来型の戦略

「サロンにおける高い価格は、単なる値段ではなく、希少性や芸術性の高さ、そして妥協しない美意識の追求、さらに国際的な評価といった積み重ねられた価値の結果によるものです。
具体的には、分子レベルの輝きを追求し、一つの粒を四日間かけて手作業で作り上げ、唯一無二のデザインやストーリー、味を実現しています。

厳選した作り手から仕入れる食材の使用、1.5ミリという精密な厚さにこだわったコーティングなど、徹底的なこだわりを込めています。
受賞作が44年の歴史で初めて審査員全員が満点をつけた『完璧賞』を獲得した事実は、世界が作品の『存在の純度』を評価する時代になったことを示しています。

最後に、『究極のプロダクトアウト』とは、市場調査に頼るのではなく、心の震えの純度を追い求める未来型のものづくりであり、その純粋な追求こそが圧倒的な共鳴を生み出し、人々の人生を静かに動かす力になるのではないと私は考えています。」


株式会社フォーデジット 執行役員/アートディレクター 石田 康太 氏

デザイナー生存戦略

株式会社フォーデジット 執行役員/アートディレクター 石田 康太 氏

デザイナーとしての20年間:生存戦略とスキルの確立

「2006年頃にフォーデジットに入社する前はミュージシャンとして活動し、サマーソニックなどのフェスにも出演経験があります。大学では建築を学んでいたため空間デザインへの興味があり、入社後にグラフィックデザインを熱心に学び、約20年のキャリアを築いてきました。

入社当初は、『カッコいいデザイン』をテーマに、表現的なデザインにひたすら没頭していた時期でした。当時はウェブサイト制作が中心で、一日で一つのサイトを完成させるほどの過酷なスケジュールの中で、インプットとアウトプットを猛烈に繰り返していました。
美大出身ではないコンプレックスから『絶対に負けない』という強い決意を持ち、制作ツールや情報が限られた環境下でひたすら反復練習を行った結果、この時期に高い専門性とオペレーションスキルを確立しました。

しかしながら、この頃は表現や制作自体に集中しすぎていたため、デザインの裏にある仕組みや、世の中の構造、あるいはユーザーがどう使うかといった広い視点には興味を持てず、ひたすら『創る』ことに手一杯だった時代でした。」

株式会社フォーデジット 執行役員/アートディレクター 石田 康太 氏が講演をする様子

自己から「誰かのため」へ。広義のデザイナーへの成長

「デザイナーとしての次の10年間は、『カッコいいデザイン』の追求から、誰かのためのデザインへと意識が変化し、より大人になりました。
この時期、関心を持つべきトピックの幅が広がり、デザインの表層だけでなく、その背後にある仕組み、顧客のビジネス、作るものの目的、そして社会への影響といった多角的な観点が加わりました。

制作物も、ウェブサイトに加え、企業の仕事の質を向上させ、結果的に一般の利用者の幸せにつながることを目指したBtoB向けのツール開発が増加しました。
さらに、企業の未来の体験を描き出すためのプロトタイプ制作や映像化提案など、未来像を提示する取り組みにも挑戦。

この10年で得られたものは、特定分野に閉じない広い視野と、物事を様々な角度から捉えようとする高い視座です。
これにより、単に『素敵なものを作ってください』と依頼される職人的な役割から脱却し、デザインに関わる人、システム、仕組み、ビジネスといった幅広い観点から関与する、広義のデザイナーとして成長することができました。
このアプローチは非常に大変でしたが、デザインの表現だけでなく、その手前のプロセス全てに関わることで、大きな成長を遂げた時期でした。」

社会につながる全方位的な取り組みと生存戦略

「2020年以降、私が取り組むデザインテーマは『社会につながるデザイン』へと進化し、降ってくる多様なテーマに対応するため、あらゆる領域を自分ごと化して捉える、全方位的な視点が必須となりました。

近年の主なアウトプットは、イオンやゆうちょ銀行、ドコモ、ahamoなどの金融・通信分野の大規模なクライアントワークが多い一方、従業員の働く体験向上のためのオフィスデザイン(コンセプト策定)や、沖縄のシングルマザーの貧困という社会課題に対し、スキルを提供し協働することで収益化を目指すプロジェクト、さらには地方銀行と地域住民の新しい関わり方を模索する取り組みなど、非クライアントワークや社会的なテーマにも幅広く関わっています。

この5年間で、画面上や空間といった点の話ではなく、それにまつわる全ての『体験全体』にリーチできるよう、全方位的な知識と経験の必要性を痛感しています。
特定の領域に特化したI型・T型人材も価値を持ちますが、多様なテーマに対応するには、自分の専門領域以外にも知識を広げる『〇〇メジャー』な視点が不可欠です。
AI時代においては、オペレーションや効率化できる部分はAIに任せつつ、核となるプロフェッショナルな尖り(目利き力、定義力、判断力)は決して失ってはいけない価値ではないでしょうか。

デザイナーの生存戦略として、まず特定領域のプロフェッショナルであることを土台とし、その軸から周辺領域へ知識を染み出させ、さらには別の領域に足を踏み入れることが大切です。
実際に制作するスキルがなくとも、プロフェッショナルと対等に話して物事を定義できることに価値があるのです。
かつて時間をかけて培ったオペレーションスキルはAIに取って代わられつつある今、経験に基づいた目利き力や判断力こそがデザイナーに残る価値だと考えています。」


懇親会の様子

懇親会では、普段接することが少ない異業種や職種の方々と語り合い、楽しいひと時を過ごしました。

まとめ

イベント終了後、「多くの業界の方々に会えて、とても良い情報交換ができた」「スピーカーの方のお話も幅広く、すべて興味深かった」「カジュアルでプロフェッショナル、クリエイターにも居心地のよい雰囲気だった」という嬉しいご感想をいただきました。

今回のイベントが、皆さまの今後の活躍の一助となりましたら幸いです。
ご参加いただきました皆さま、本当にありがとうございました。

これからもAQUENTでは、多くの企業の皆さま、タレントの皆さまのニーズお応えするべく、様々な情報や機会をご提供させていただきます。


【登壇者】

水野 太 氏
東京ガス株式会社 サービスデザイナー

15年以上にわたりUXデザイン、デザインリサーチ、デザインリーダーシップの分野で活動。Fintech、自動車、デジタルメディアなど多様な業界、グローバルエージェンシーにおいて、ユーザー中心の問題解決とビジネス成長を実現してきた。
2025年、東京ガス株式会社初のサービスデザイナーとして参画。デジタルプロダクト開発組織に所属しながら、他部署で担う再生可能エネルギー関連のプロダクト開発において、サービスデザイン、アジャイル開発、サービスデザインスプリントなどを駆使し、組織変革と具体的なプロダクト開発の両輪を牽引している。HCD-Net認定 人間中心設計専門家。


小林 愛花 氏
紹介制ショコラサロン「Aika Kobayashi」代表

大手コンビニで10年商品開発後、世界一周チョコ旅へ。地元・群馬県前橋市にUターンし、店舗を持たずアトリエで製作。紹介制・会員制でオンライン販売。3年目でパリC.C.C.にて金賞と史上初「パーフェクト賞」をW受賞。物理学の知見を活かし、宝石のようなショコラで地球上の輝く時間を増やすことを使命に活動。


石田 康太 氏
株式会社フォーデジット 執行役員 / アートディレクター
音楽活動を経て、2006年にフォーデジットへ入社。2021年、執行役員に就任。
様々な業界・規模のプロジェクトに上流フェーズから携わり、ウェブサイト・モバイルアプリ・ソフトウェアなどデジタルプロダクト、オフィス・ポップアップストアなど空間コンセプト、CI・VI・周辺アプリケーションなどグラフィックデザインなど、幅広いアートディレクション・デザインの経験を持つ。