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人と人のインタラクションが生む新たな発想

By: Aquent

~グローバルな現場で学んだプロダクト思考~
LAST UPDATED: 2026/10/26

柔軟な視点で時代を捉え、軽快なアプローチで新しい表現を拓くクリエイターたち。
自由な発想から生まれる彼らの飾らない本音と、明日からの「ものづくり」を切り拓くヒントをお届けします。

リレーインタビュー第1回は、東京ガス株式会社のサービスデザイナー・水野太さんに、「AI時代のデザイナーのあり方」ついてお話を伺いました。

今回第2回は、グローバルな視座でプロダクトデザインに取り組み、戦略の上流からプロジェクトを牽引してきた、インタラクションデザイナーの中村 麻由(なかむら まゆ)さんをお迎えし、「越境」をテーマにグローバルな知見と日本の現場のリアリティを繋ぎ、組織やチームに定着・変革をもたらしてきたのか、その思考と実践についてお話を伺いました。

Q.まず、ご紹介いただいた水野さんとのご関係について教えてください。

水野さんとは、私が以前デザインエージェンシーにいた頃のクライアントとして、プロジェクトでご一緒しました。
水野さんとはユーザー中心設計などの思考やアプローチが共通していたので、細かい説明をしなくても、この方向でいこうとすぐに意図が伝わる、とても心地よい共創関係でした。

Q.中村さんはこれまでどのようなお仕事をされてきましたか?

私はもともと光ディスクのUI開発やプログラミングに携わるエンジニアとしてキャリアをスタートしました。
ただ、現場で開発を進めるなかで、使い勝手やユーザー体験にすごく興味を持つようになり、デザインを学びたいという思いから渡英し、インタラクティブメディアを学んでデザイナーに転身しました。

専門はデジタルプロダクトで、主にアプリやオンラインサービスの体験を設計しています。
デザイナーというと、グラフィックを描いたり、色やレイアウトを決めたりするイメージを持たれがちなんですが、私の場合はユーザーがどうプロダクトやサービスを体験していくかという体験の設計を行っています。

そのため、形をつくり込むというよりは、ユーザーリサーチやインタビューをしたり、それをもとに簡単なスケッチやプロトタイプを作って検証を重ねるような、上流のプロセスに深く関わることが多いです。

Q.体験を設計しているということですが、「モノづくり」を超えて上流からプロジェクトに関わるようになったきっかけや、そこで感じた手応えについて教えてください。

自分から上流に関わり始めたという意識はあまりないんですが、きっかけを遡ると、2つの大きなターニングポイントがありました。

最初の出発点は、日本でエンジニアとして働いていた時です。
ふと、私が作っているものって、本当に使ってくれる人に喜ばれているんだろうか?と疑問を持ったことでした。
当時はビジネスのことまで深く意識していませんでしたが、使う人や買う人が対価を払ってでも使いたいと思えるかという本質的な問いが、すべての始まりだった気がします。

もうひとつのきっかけは、ロンドンで仕事をしていた時に体験したアジャイル開発の普及です。日本ではまだエンジニア中心の取り組みと思われがちですが、当時のロンドンでは開発だけでなく、デザイナーやビジネス側の人間も集まって、1つのプロダクトチームを作る流れができていました。

デザインが上流に進出したというよりは、上流も下流も全員が一箇所に集まって、最初の0→1から一斉に走り始めた感覚です。
そこで、ユーザーにとって価値があるかを、みんなで議論しリサーチで検証してコンセプトに落とし込んでいくプロセスへ自然と入っていきました。

手応えとしては、とにかくすごく楽しいということですね。
完全な分業だった頃は、仕様書を作って渡したら自分の知らないところで実装が進んでいくことも多かったです。
しかし、プロダクトチームで一丸となって動くようになってからは、アイデア出しから実装、そしてユーザーが喜ぶ反応を見取るところまで一貫して共創できます。
ビジネスの価値創造とユーザーの喜びをダイレクトに感じられるのは、本当に大きな喜びです。

Q.グローバルな環境で働かれていると、日本と海外におけるデザインに対する考え方やアプローチの違いが見えてくるかと思いますが、どのような違いがあるのか教えてください。

まず前提として、日本にいると、日本か海外かと二分して捉えがちなんですが、海外と一口に言っても本当に多種多様。私がいたロンドンは、ヨーロッパ各国をはじめ、中東、インド、香港など多様なバックグラウンドを持つ人々が集まる場所でした。

文化も価値観も全く異なる人々が混ざり合っている現場なので、デザインの考え方もみんなそれぞれ。
だからこそ、新しいチームに入るたびに「この人はどう考えていて、どう進めたいのか」と、一人ひとりの人を知る姿勢が出発点になります。

そうして多様な人間が集まると、当然ながら意見のぶつかり合いや批評が生まれます。
ここで大事なのは、相手の意見を単なるダメ出しと受け取るのではなく、オープンマインドで対話し、健全な批判としてデザインの質を高めるエネルギーに変えていくことです。
お互いの思考を理解しようとする姿勢がないと、ただの衝突や不和に終わってしまいます。

ロンドンでは関係性が非常にフラットで、誰もがオープンに意見を言い合える環境がありました。
思ったことを率直に交わし、「これはもっと良くできる」と議論を重ねる批評の文化こそが、プロダクトやデザインの質を磨き上げていくのだと実感しました。

Q.自分の意見をはっきり伝えることで、時に激しくぶつかり合うことも想定されますが、意見が対立した際にうまく対話を進める方法はありますか?

インタラクションデザイナー中村麻由さんがインタビュー取材に応えている様子。

意見のぶつかり合いを前向きなエネルギーに変える方法として、私は「クリエイティブ合気道」というフレームワークを活用しています。相手を論破するのではなく、力を受け流して価値に変えるといった価値に変えるという考えです。
もともとデンマークのビジネススクール、カオスパイロットにいた方が考案したワークショップ手法が発祥です。

一般的な議論ですと、相手の意見をブロックして自分の意見をぶつけ返す、攻撃の応酬になりがちです。
しかし、クリエイティブ合気道は、合気道の相手の力をぶつけ合うのではなく、その勢いを上手く活かして展開するという思想からインスピレーションを得たフレームワークです。

具体的なステップとして、まずは相手の意見を否定せずに一旦すべて受け入れる。
少し抵抗を感じても、一度飲み込んで受容します。そのうえで自分の考えと統合・掛け合わせ、新しいアイデアとして相手に提案し返していきます。
アイデアを最初から切り捨てず、一度飛び込んで議論を重ねていく体験を通して、対立を単なる衝突で終わらせず、より高次のクリエイティブな答えへと昇華させています。

Q.外部のエージェンシーとして伴走する中で、クライアントの内部チームが自分たちでオーナーシップを持ってプロダクトを育てる状態を作るために、意識的に仕掛けているプロセスはありますか?

内部でオーナーシップを持たないとプロジェクトが進みにくくなります。
そのため、プロジェクト開始時には必ず「プロダクトオーナーはどなたですか?」とお伺いするようにしています。

ただ、日本の大企業などでは、実際の意思決定権はさらに上の上層部にあるというケースが多く、自分がオーナーと言いづらい雰囲気がまだあります。
そうした場合は、「このプロジェクトの部屋の中だけで良いので、あなたが決定権を持つオーナーの役割を担ってください」とお願いし、仮でも意思決定の軸をチーム内に置くようにしています。

意思決定者がチームの中にいないと何が起きるかというと、判断軸がユーザー中心から社内ステークホルダー中心に方向が変わってしまいます。

アジャイルやユーザー中心設計の前提は、現場でユーザーと向き合い、生の声を直接聞いているチームこそが一番正しい選択をできるという考え方。
せっかくリサーチやインタビューでリアルな感覚を掴んでも、決定権が現場にない場合、現場の熱量やリアルなユーザー像から乖離した意思決定になってしまいかねません。

外部パートナーとしてただ手足を動かすのではなく、内部チームが意思決定の意思と熱量を持ち、自走してプロダクトを育てられる構造自体をサポートすることを大切にしています。

Q.クライアントを巻き込む秘訣や、チームのカルチャーそのものを変革していく体験についてお聞かせください。

一番大事なのは、まずは自分たち自身がプロジェクトを楽しむこと。外部から呼ばれた人間だからこそ、「こんなアイデア出してみますか?」「こんなこと作ってもいいかも」と一歩踏み込んだ提案を形にしてみるんです。無難につくると安全で確実に動くものはできますが、やっぱり面白くはありません。

本来、最初の0→1であるディスカバリーのフェーズは実証と実験の場。
変なアイデアや奇抜な案でも、簡単にプロトタイプを作ってユーザーに見せてみる。全部作り込んでから全ボツになるより、初期段階で失敗したほうがケガも少なくて済みますし、アイデアをどんどん試して手応えを得ていく体験こそが、クリエイティビティ本来の楽しさをクライアントに実感してもらえる秘訣だと思います。

ただ、日本の企業ではウォーターフォール開発の文化が残っているところも多く、絶対に失敗できない、無難が一番という空気がチームにあると、なかなか冒険できません。ワークショップでも、面白いけれど、リスクがあるからやめておきましょうとなりがちで、そこは難しさを感じています。

だからこそ、小さい領域でもいいから、仮説を立てて・作って・試して・ユーザーに喜んでもらうというサイクルを一巡させてみる。
その成功体験をチームで積み重ねていけば、次はもう少し冒険した案をやってみよう!という自信が生まれ、自走する強いカルチャーへと変わっていくのではないでしょうか。

Q.日本ならではの強みを活かしてグローバルに発信していくために、日本のクリエイターやマーケターはどのようなマインドを持つべきでしょうか?

インタラクションデザイナーの中村麻由さんがインタビュー取材で回答している様子。

欧米の方が優れているからその通りになりなさい、となると反発心も出ますし、自分たちの自信もつきません。だからといって自分たちは違うからと突っぱねてしまうと、新しい挑戦ができません。

大切なのは、二者択一ではなく柔軟な曖昧さを持つこと。
最終的にはノーと言ってもいいという選択肢を自分の中に持っておくと、むしろ一旦やってみようとイエスも言いやすくなります。

欧米のデザイン思考やアジャイルも、全員で無理やり導入しなきゃと強制されると拒否したくなります。
でも、部分的に合いそうなところだけ試してみて、嫌ならやめればいいくらいの余白を持っておく。そうやって一旦受け入れて試してみるスタンスが、まさに先ほどお話しした「クリエイティブ合気道」の実践につながるのかなと思います。

また、日本に戻ってきて強く感じたのは、日本の方はチームで協力して物事を進める能力が非常に高いということです。

タイムリミットがある現場で高い協力体制を築ける文化は、世界に誇れる素晴らしい強みです。
自分たちの文化に自信を持って、海外のフレームワークも柔軟に取り入れながら良いものを作っていけばよいと思います。

もうひとつ、日本のクリエイターやマーケターに意識してほしいのが、デザインと自分を切り離して考えること。
クリエイティビティにはアートの要素も入るので、フィードバックを受けた時に自分がデザイナーとして否定された、ダメ出しされたと個人的に受け取ってしまいがちです。
ですが、作品は私自身ではないと切り離す訓練ができると、相手の客観的なフィードバックを冷静に受け取り、デザインの質を高めるエネルギーに変えられるようになります。

この世界では、シニアだからといって常に正しい答えを持っているとは限りません。
上下関係や正誤の判断ではなく、異なる視点を持ち寄ってプロダクトの質を高めていく。そんな文化がチームに根付いていけば、日本のクリエイティブはもっと強くなっていくはずです。

Q.最後に、領域を越境して価値を高めていきたいと考えているクリエイターやマーケターへ向けて、次の一歩を踏み出すためのメッセージをお願いします。

AIを使えば誰でも瞬時に正しそうな答えが出せてしまう時代だからこそ、思考の摩擦が失われている感覚があります。
すぐに形になるからと妥協せず、出てきたものを疑い、人間同士で議論を重ねるプロセスを手放さないでほしいです。

自分と違う視点を持つ人と対話し、時にはなぜこの人はこう考えるんだろう?と違和感や摩擦が生じる瞬間から逃げずに「クリエイティブ合気道」を試してみる。相手の意見を受け入れながら、プロダクトをもう一段上へ持っていく粘り強い思考こそが、AIには生み出せない本物のクリエイティビティに繋がります。
簡単に作れる無難なものがあふれる時代だからこそ、人とぶつかり合いながらさらに上を目指していきましょう。

そして、現場のクリエイターやマーケターだけでなく、経営層やマネジメントの方々にも伝えたいこと。
それは、もっと失敗を許容し、実験できる環境をつくろう。ということです。

日本の製造業を支えた、絶対に失敗しない品質管理は誇るべき強みですが、2週間ごとに新しい技術やトレンドが生まれるデジタル・AI時代において、失敗を恐れていては新しい価値は生まれません。小さな実験と失敗をチームで何度も繰り返し、学びを得て前進する。
そうした失敗を恐れず挑戦できる環境を企業側が作っていくことこそが、優秀な人材のポテンシャルを最大限に引き出し、イノベーションを起こすきっかけになるはずです。

まとめ

今回のインタビューを通して中村さんが語ってくれたのは、チームのカルチャーそのものを前進させていくデザインの思考法。

AIで平均解がすぐに手に入る時代だからこそ、人間同士で議論を重ねる思考の摩擦を恐れないこと。
そして、社内外の垣根を超えて対等に対話し、本当にユーザーに喜ばれる価値を追求し続けること。
その姿勢の中に、これからの時代を切り拓くヒントが詰まっています。

領域を越えて自身の可能性を広げたいクリエイターにとっても、自走する強いチームを作りたい企業にとっても、専門性を持ったプロフェッショナルと共に壁を越えていく「共創」のプロセスは大きな力となるでしょう。


【Interviewee】

中村 麻由|Mayu Nakamura
Interaction Designer,
Freelance

インタラクション・情報デザイナー。
日本で光ディスクのUI開発に携わった経験からユーザー体験設計に興味を持ち渡英。
ロンドン芸術大学卒業後、ロンドンと東京で15年以上エージェンシーに勤務し、デザイン戦略やUX向上のためのディレクション、ワークショップ、ユーザー調査から情報デザイン、プロトタイピングまで、幅広く担当。
ジャンルを問わない音楽好き、かつJリーグ開幕当初からのサッカーファン。
飼い猫には逆らえない。現在はフリーランスで活動中。


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