不確実な未来に対し、非線形なアプローチで新たな価値を切り拓く「フューチャーデザイン(Future Design)」。
連載の第1回ではその概念と組織の発足背景を、第2回では未来型思考に基づいた実践とイノベーションの土台について、PwCコンサルティング合同会社(以下、PwCコンサルティング)Future Design Lab(フューチャー・デザイン・ラボ)のリーダー、三山 功氏にお話を伺いました。
最終回となる今回は、この未知なる領域に挑む「人」と「組織」にフォーカスします。
世界的に見ても稀な「ビジネスとデザインの融合」を、プロフェッショナルファームであるPwCコンサルティングで実践する真の価値とはどこにあるのか。
未来の社会をデザインし続けるメンバーの人物像とは。
そして、その先に広がるキャリアの可能性について、三山氏に詳しくお伺いしました。
チームで活躍するにはどのような人物像が求められますか?
第一に、何よりも重視されるのは、「望ましい未来」を考えられる事です。誰も考えた事がない「望ましい未来」を想像する事に対して、好奇心や楽しみを見出せるという資質です。未知の可能性を切り拓くプロセスそのものをポジティブに捉えられるマインドセットが、
活動の原動力となります。
第二に、自身の専門領域の壁を越えていく越境精神(Beyond borders)が求められます。望ましい未来の実現には、デザインやクリエイティビティ、ストラテジー、テクノロジーといった多様な要素の融合が不可欠です。自分の専門性は持ちつつも、特定のドメインに固執するのではなく、異なる専門性を持つ他者の視点を柔軟に取り込み、協働できる姿勢が欠かせません。
例えば、論理の限界を感じているストラテジストがデザイナーの作法を理解しようとするように、異なるプロトコルを持つ者同士が、その違いを超えて一緒に価値を生み出すことが大切です。
こうした異なる背景を持つ人々が交わる場では、時に価値観の衝突が生じることもあります。しかし、その軋轢を避けるべきものとは考えません。むしろ、新しい価値を生み出すために必要な「創造的な摩擦」として捉え、そのプロセスを楽しめることが、チームの一員として不可欠な条件となります。
そして第三に、これら二つの土台があって初めて、フューチャーデザインに活かせる具体的な専門性や経験が評価の対象となります。スキルや実績以上に、未来に対する姿勢と多様性を受け入れる包容力が、Future Design Lab(以下FDL)の根幹を支えていると言えるでしょう。
設立フェーズから現在の拡大フェーズへと移行する中で、FDLを取り巻く環境や活動にはどのような進化がありましたか。
FDLは、設立当初から現在にかけて、扱う領域とメンバーの専門性の両面で大きな進化を遂げてきました。
当初、私たちの活動は「0」と呼んでいる領域、つまり無の状態から望ましい未来の戦略を描くという、コンサルティングに近いフェーズが中心でした。
しかしそこから、ブランド戦略やアイデア創出といった「0 to 1」つまり、デザインイノベーションの領域へと広がり、現在はさらに、そのイノベーションを社会に実装し、具体的な形にしていく「1 to 10」のディベロップ段階までをカバーしています。
こうした事業ドメインの拡大に伴い、メンバーの顔ぶれや役割も変化してきました。
初期は戦略に強いストラテジストが中心でしたが、現在はストラテジックデザイナーやUI/UXデザイナー、さらにはデジタルに精通したフルスタックエンジニアなど、多様な専門家が集まる組織へと成長しています。
こうした進化の背景には、AIの台頭という環境の変化に対する危機感もあります。
デジタルの中で完結するビットの世界、つまり戦略を練るだけの「0」の領域は、今後AIに代替される可能性があります。私たちがこの先も価値を発揮し続けるためには、描いた未来をリアルの世界で泥臭く実践し、具体的な「カタチ」として結実させる力が不可欠です。
そのため、現在のFDLでは、戦略担当者がより具体的に実装までを視野に入れて能力を拡張する一方で、制作や開発を担当するメンバーもまた、上流の戦略や未来の文脈を深く理解することが求められています。
ただ作るだけでなく、戦略的な意図を細部まで落とし込めるフルスタックなデザイナー、フルスタックなテクノロジストへと進化し続けること。
それが、今のFDLが進化を遂げてきているところです。
そのような変化の中で、異なる強みを持つプロフェッショナルがチームとして動く事こそ、未来戦略を理解する近道になるということでしょうか?
おっしゃる通りです。私たちのプロジェクト体制は、専門領域の異なるメンバーを組み合わせた「混成チーム」を基本としています。
案件によってはデザイナーやストラテジストが単独で動くこともありますが、最近では、論理的に戦略を組み立てるストラテジストと、バックキャストなどの自由な発想を得意とするデザイナーがチームを組む形が主流となっています。
このように、異なる強みを持つプロフェッショナルがひとつのチームとして動くことで、戦略立案から具体的な提案まで一貫して遂行できる体制を構築しています。
フューチャーデザインの領域で働く面白さや、やりがいを教えてください。
フューチャーデザインの領域で働く面白さは、デザイナーやコンサルタントとして、これからの時代に最も求められる高度な能力を磨ける点にあります。
現在、オルタナティブな未来を構想する「スペキュラティブデザイン」などは世界中で注目されていますが、その多くは概念的な提案や小規模な実装に留まり、大企業や社会レベルの実装に落とし込んで大きなインパクトを創出している例は世界的に見ても極めて稀です。
私たちは海外のカンファレンスでも、いかにしてこの手法をビジネスインパクトに繋げているのかと驚きを持って尋ねられることがあります。
世界でもまだ「お金にならない、形にならない」と言われがちな未来デザインの領域を、実際のビジネスの現場に接続し、社会を動かす力に変えていける。
その最前線で経験を積めることこそが、ここで働く何物にも代えがたい価値であり、面白さだと思っています。
海外でもあまり巨大企業に入り込めていないのに、なぜ日本では、もしくはFDLならできているのかといった点には、実は仮説を持っています。
私たちが巨大企業に対してフューチャーデザインを実装できている背景には、世界でも類を見ない「ビジネス側からのアプローチ」という特異な立ち位置があるからです。
現状、この領域の多くはデザイン出自の人々が占めていますが、私たちは純粋な戦略コンサルタントの立場から、アートやサイエンス・フィクションといったクリエイティブな世界へ踏み込み、その価値をビジネスへと持ち帰ってきました。
一般的に、「デザインの言葉」だけでは企業の意思決定権を持つ経験豊富な経営層に深く入り込み、組織の投資判断を動かすことは困難です。しかし、私たちはもともと経営層との対話を通じて蓄積してきた戦略コンサルティングのプロトコル(作法)や言語を備えています。
抽象的な未来の構想を、経営層が理解し納得できる投資価値へと翻訳して提示できるからこそ、アイデアレベルや単発的な提案に終わらない、実効性のあるビジネスインパクトを生み出せるのです。
論理と感性を接続し、ビジネスの壁を越えて未来を実装していくプロセスは非常に難易度が高いものですが、それこそが私たちの唯一無二のやりがいだと考えています。
FDLの育成や研修制度についてお聞かせください。
ここまでお話してきた通りFDLでは、戦略立案とデザイン実装という、相反するスキルが同時に求められるため、独自の育成体制の整備を進めています。
2026年度は初めて新卒メンバーを受け入れましたが、これにあたり、10日間にわたる「オンボーディング研修」のベータ版を開発しました。
研修では、戦略的思考だけでなくUI/UXデザインの基礎までを網羅しており、現在はこれを改良して中途採用の方も短期間でスムーズにプロジェクトへ参加していけるような仕組み作りを行っています。
単なる現場でのOJTに留まらず、入社直後の教育体制を整えることで、デザイナーの方でも安心して挑戦できる環境を整えています。
この教育の核となるのが、私たちがフューチャーリテラシーと呼んでいる考え方です。これは、単にテクノロジーの知識を得ることではなく、「望ましい未来」を正しく描き、そこに向かうための姿勢や思考力を磨くことを指します。
こうしたスキルを身につけることは、個人のキャリアにとっても非常に大きな価値があります。現在、グローバル企業の間では、社内に「フューチャリスト」や「ストラテジックフォーサイト」といった専門職を配置する動きが加速しており、実務家のコミュニティーも形成されています。
数年遅れて世界の潮流が届く日本においても、今後こうしたポジションが普及していくはずです。
いち早くFDLで経験を積んだメンバーが、将来的に社会のあらゆる場所で「未来の専門家」のポジションに旅立っていく。そのようなキャリアの広がりを私たちは見据えています。
PwC社で働くことの強みや、この領域を目指す方へ向けた思いをお聞かせください。
PwCでフューチャーデザインに取り組む最大の強みは、デザイナーにとって最も遠い存在だと思われがちなJTC(ジャパニーズトラディショナルカンパニー:伝統的な日本企業)の経営層こそが、実は今、最も切実に自社のブレイクスルーや既存のビジネスの代替案としての「未来」を求めているという事実に触れられることです。
私たちのチームは、経験豊かなコンサルティングファームとしてのネットワークを活かし、これまでデザイナーが焦点を当ててこなかったBtoB領域や企業の根幹に対して、オルタナティブな未来を提示できる唯一無二のポジションにあります。
もちろん、コンサルティング特有のカルチャーとこれまでデザインが得意としてきた領域を融合する難しさはありますが、FDLにはすでにその壁を乗り越えたデザイナー出身の仲間が数多く在籍しており、異世界に触れながら自らの能力を拡張していける環境が整っています。
しかし、私たちの組織は決して完成形ではありません。
PwCグローバルネットワークという大きなネットワークの中にありながら、今までにない価値を生み出すスタートアップやインキュベーターのような存在です。
私たちは、誰も飛び込んだことのない海へ真っ先に飛び込むファーストペンギンとして、前例のない矛盾や困難に直面することもあります。
そうした状況を楽しみ、仲間と共に新しい海をデザインしていこうとする情熱を持った方にとって、ここは無限の可能性を秘めた魅力的な場所になるはずです。
まとめ

PwCコンサルティング 執行役員 / パートナー 三山 功氏(右)
エイクエント ジャパンカントリーマネージャー 杉本 隆一郎(左)
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全3回にわたる三山氏へのインタビューを通じ、Future Design Labが描く未来の在り方と、それを社会に実装していく道筋を示していただきました。
既存の延長線上にない未来を構想する「フューチャーデザイン」は、単なる概念ではなく、複雑化した現代のビジネス課題に対する極めて実効性の高いアプローチです。
「誰も飛び込んだことのない海へ飛び込むファーストペンギンでありたい」。
三山氏のその言葉は、FDLの姿勢そのものを象徴しています。
未来を正しく考えるリテラシーを磨き、社会に具体的なインパクトをもたらし続ける組織の挑戦は、これからも加速していくでしょう。
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▼過去の記事はこちら
【第1回】フューチャーデザインとは ~新たなアプローチの融合「未来創造型コンサルティング」を紐解く〜
【第2回】フューチャーデザインの実践 〜未来型思考のテクノロジーとイノベーションの土台〜
【Interviewee】

三山 功 氏
PwCコンサルティング合同会社
執行役員 / パートナー
ストラテジーコンサルティング事業部 Future Design Lab
スタートアップ・外資系コンサルティング会社などを経て、PwCコンサルティング合同会社に入社。ストラテジーコンサルティング事業部においてFuture Design Labを率いるフューチャリスト/ストラテジスト/デザインエグゼクティブ。 戦略的未来洞察、デザイン主導のイノベーション、システム思考を融合するチームを率い、望ましい未来の共創に取り組んでいる。 特に2030年~2050年頃の未来世界の創造と、それを応用したバックキャスト型の価値共創プログラムを数多く手掛ける。
モビリティ、製造業、ヘルスケア、都市開発など多様な業界のクライアントを支援してきた実績があり、国際的なフューチャー・イノベーションのフォーラムでも頻繁に登壇している。
※法人名、組織名、役職、インタビューの内容等は取材当時のものです